創造力とは何か?
この問いに具体的に答えられる人はなかなかいないのではないでしょうか? 創造力といえば、大抵の人はただぼんやりとしたイメージでしかとらえていないと思います。たとえば、「誰も見たことや経験したことがないものを創り出す能力」といった感じです。では、「それらを創り出す能力とは、具体的にどんな能力で構成されているのでしょうか?」「創り出す能力の源泉はなんなのでしょうか?」と聞かれれば、誰もが答えに困るはずです。
しかし、ここがわからなければ創造力を獲得することはできません。
10年ほど前、私が社会人大学院に入ったとき、創造力について議論が起こりました。クラスメートは8割以上が高学歴で、職業は医者、会計士、税理士、有名企業の幹部、会社経営者などそうそうたるメンバーです。このとき、「創造力はどうすれば身につけられるのか?」といった議論はしても、「創造力とは何か?」つまり創造力を定義しようという議論は起こりませんでした。
私は「まず創造力の定義をしないと、身につけようがないのでは?」と考えましたが、残念ながら当時の私も、創造力を明確に定義することができませんでした。それからときどき、創造力とは何かということを考えていたのですが、数年前、ふと自分なりの答えが見つかったのです。ここでは、私が定義した創造力について書いてみます。
創造力とは他者から価値を認められた独自性のこと
早速、見出しに答えを書いていますが、もう少し掘り下げてみましょう。
私は創造力には次の3つの要素があると思うのです。
独創性があること
他者から価値を認められていること
独自性とは、他にはない自分だけのものという意味です。
独創性とは、独自の考えで物事を創り出す性質や能力のことです。
物事を創造するには、独自性があるだけではダメで、それを形にするための独創性がないといけません。まずはこの2つが、物事を創造する力の源泉になります。
そして、思いのほか重要なのが3番目の ”他者から価値を認められること” です。いくら独自の考えや、それを形にする独創性があったとしても、他者が価値を感じないと創造力があるとは言われません。では、他者が価値を認めない独自性や独創性は何といわれるのか? それは「ただの独りよがり」だと言われるのです。「それはあなたの独りよがりであって、創造力ではない」と。
これが人間社会の難しいところです。他者にはないモノの考え方とそれを形にする能力、それに他者が価値を認めてはじめて「あなたは創造力がある」と言われるのです。もちろん、独自性と独創性だけでも創造力があると言ってもよいと私は思います。ですが、多くの人が創造力が欲しいという場合、独りよがりな能力が欲しいとはまず思わないでしょう。
なぜなら、他者が価値を認めない創造力があっても、何の利益も生み出さないからです。どうせなら、「利益を生み出す創造力が欲しい」と考えるのが人情だと思います。だから私は、創造力の獲得にはこの3つが必要な条件だと考えるのです。
独自性と独創性の獲得
では、独自性や独創性は、どのようにすれば身につけられるのでしょうか? 独自性というのは、自分独自の考え方ですから、他人の話や本などでいくら知識を吸収したとしても、手に入れることはできません。しかし、私たちは簡単に独自の情報を入手する手段を持っています。それは、自分の考えで主体的に行動することです。人から言われて行動するのではありません。自分自身の考えや判断で行動することが大切なのです。
自分の判断で行動するということは、他人の介入がないということです。他人から指示を受けた時点で、それは自分自身の考えにもとづいた独自の行動ではなくなってしまうのです。
反対に、自分の判断で行動し、そこで手に入れた情報は、誰のものでもない自分だけの情報になります。そして、次に大切なのは、そうした独自の判断でする行動を増やしていくことです。
たとえば、あなたが独自の判断で100の行動を取ったとしましょう。その100の行動すべてが、他人と合致することはまずありません。つまり、どれだけ他人と違うことをしているか、その数が多ければ多いほど、その人の独自性は高まっていくことになるのです。「人と違うことをやれ!」と昔からよく言われていますが、その理由とはこういうことなのです。
自分独自の判断で行動することで、同時に独創性も身につけることができます。自分の判断で行動することは、自分の考えを形にすることに近い行為だからです。実際に色々な体験を積むことでしか、モノを形にする能力は身につきません。本や人の話だけでは情報量が少なすぎるからです。いくらスポーツ選手の動きを詳細に書いた本を読んでも、本人と同じ動きをすることはできないでしょう。結局は、自分で何度も練習して、自分の身体に感覚的な情報を覚えこませていくしかないのです。
最終的には情報量の差、
それも、他人が持っていない自分だけの情報が独自性を獲得するカギとなるのです。
多くの人から認められる価値を創るために必要な経験
あなたが独自性と独創性を手に入れたと仮定しましょう。しかし、あなたが創ったモノに多くの人が価値を認めるとは限りません。世の中の大多数の人が価値を認めるようなモノを創るためには、それだけ多くの人の嗜好を知る必要があります。そのためには、選り好みせず、色んなタイプの人とつき合ってみることが大切です。とかく、今の世の中では、社会的地位が高い人やお金持ちとつき合おうとする人ばかりです。ところが、そういった階層の人たちというのは、意外にも嗜好が似通っていて多様性がありません。
よく社会の構造がピラミッド型で表されますが、下層にいくほど底辺が広くなっています。底辺が広いということは、それだけ人の数が多いということです。それはすなわち、多様性があることを意味します。社会の上層部より下層部のほうが多様性があるのです。また、所得階層ごとに人の嗜好性というものは違っています。考え方や行動パターン、どんなことに価値を認めるかなど。だからこそ、色んな階層の人、色んなタイプの人とつき合って、どんな階層の人にはどんな嗜好があるのかを知る必要があるのです。
いや、選り好みせず色んなタイプの人とつき合っていると、そういうことを意識しなくても、勝手に肌感覚で身についていくといったほうが正しいかもしれません。人づき合いはフィーリングが大事なので、あまり下心を持たずにつき合うほうがいいでしょう。とにかく「この人とつき合えば自分に得がある」といったことばかり考えず、まずはつき合ってみることです。
色んなタイプの人とつき合うほど、自分の中に多様性が生まれ、独自性を育むことにも繋がります。また、色んなタイプの人と分け隔てなくつき合えるということは、それだけ多くの人の価値観を認められるということです。自分が相手の価値観を認めると、自分の価値観も相手から認めてもらえるようになります。そうなると、あなたの言葉や行動が多くの人から認められやすくなります。そして、いづれあなたの創作物も、自然と多くの人に価値が認められるようになっていくでしょう。