35歳で頭が固くなる人ならない人

「35歳を過ぎると頭が固くなる」

日本社会ではよく知られた一般論です。今現在においても、この言葉が真実だと考えている人は少なくありません。しかし、このようなことをいう人に、その根拠を尋ねてみると、なぜかほとんどの人は答えらないのです。「そんなの常識だろ?」というばかり。物事には必ず原因があります。それを考えず、ただ常識だからという理由だけで鵜呑みにするのは、ただの思考停止と言われても仕方がありません。

たしかに、これまでの日本社会の構造からすると、この言葉はある意味正しいといえます。とはいえ、35歳を過ぎたからといって、どんな人でも必ず頭が固くなるわけでもないのです。今回は、日本社会では常識ともいえる、この説の社会的背景や原因について考えてみます。

頭が固いとはどういうことか?

まず、頭が固いとはどういう状態なのか、おさらいしてみましょう。頭が固い人とは、一般的には以下のような状態の人をいいます。

 人の話を聞こうとしない
 他人の価値観を認めない
 自分のやり方に固執する
 思い込みが激しい
 環境の変化に適応できない

このような人は、社会人なら誰もが経験したことがあるのではないでしょうか? とくに中高年世代によく見られる傾向です。もっと効率的なやり方があるのに、なぜか古いやり方に固執する。そうしないといけないと思い込んでいる。環境が変わっても、新しい環境に適応できない。新しいことを覚えたがらない。なぜこんなことになるのでしょうか?

変化への慣れが頭を柔軟にする

頭が固くなる最大の原因は、長年同じ環境で生活を続けることです。同じ会社、同じ仕事、同じ人間関係・・・このような変化のない生活を長く続けるほど、人はあまり頭を使う必要がなくなります。同じ環境で生活を続けていると、それがどんな環境でもいづれ慣れてきます。慣れると日々の生活は楽になるのですが、それは同時に脳をあまり使わないことになるのです。環境が変わると、脳は少しでも早く環境に慣れようと活発に働きます。そして、環境に慣れてくると、脳は省エネモードになります。

これは自動車の運転を考えると、よくわかります。初心者のころは、ハンドルを握ると緊張して、色々と意識的に注意をしなければなりません。1時間も運転すれば、かなり神経が疲れることでしょう。それが何年かたつと、運転技術が向上し、とくに意識しなくても、色んなところに注意を払えるようになっています。このとき、脳は初心者のころほど活発には働いていません。これが慣れというものです。

そして、この慣れというものは、何度も経験すればするほど、慣れるまでの時間が短くなっていきます。私はこれまで転職を6回していますが、転職するたび、次の環境に慣れる期間が短くなっていくことに気づきました。最初の転職では、半年くらい強いストレスを感じていた覚えがあります。それが転職を重ねるたび、3ヶ月、2ヶ月、1ヶ月といった具合に、強いストレスを感じる期間が短くなっていったのです。恐らく、脳が鍛えられ ”慣れることに慣れていった” のだと、私は考えています。何度も環境の変化を経験することで、変化への対応が次第に早くなっていったのです。同時に、変化することが苦にならなくなっていきました。

日本は長年、終身雇用・年功序列の制度でやってきました。同じ会社に勤め、同じ仕事をし、同じような人間関係で10年、20年という時間を過ごしてきたのです。そのため、環境の変化に慣れるという経験が、ほとんどできませんでした。変化の無い生活が長ければ長いほど、環境が変化したときにかかるストレスは大きくなります。長年、脳が変化に慣れる経験をしていないので、変化に対する適応力が低い状態で止まっているのです。

新卒から同じ会社で働き続けた人は変化のストレスに弱い

中高年世代で、新しいことを覚えようとしないのは、新卒から同じ会社に勤め続けて、中高年になった人の割合が多いはずです。彼らは、新しい環境に適応したり、新しいことを覚えたりすることに、非常に強いストレスを感じます。そのストレスが強すぎるため、「新しいことをやりたくない」というのが正直なところだと思います。

私が以前に勤めていた一部上場企業は、外資系企業に買収され、職場環境がガラリと変わりました。環境の変化に耐えきれなかったのか、新卒からずっとその会社にいる人たちは、何人も鬱病になってしまいました。その時点で、すでに3回転職していた私からすれば、鬱病になるほどの変化ではなかったのですが、彼らにとっては相当なストレスだったようです。

そのとき、私の部署にも1人鬱病になった人がいました。彼はとにかく、「こんなやり方はしたくない」「今まではこれでよかった」といったことばかり口にしていました。しかし、そんな愚痴をいったところで、もう元には戻れません。私は「会社が変わったのだから仕方ない」と割り切っていましたが、彼にはそのような割り切りができなかったのです。

35歳を過ぎても頭が柔軟な人とは?

ここまで読んだ人なら、もうわかると思います。35歳を過ぎても頭が柔軟な人とは、環境の変化を何度も経験している人です。若いころは誰しも、「こうじゃなければいけない」といった強い思いを、1つや2つは持っています。ところが、いざ社会に出てみると、そんな自分の考え方が通用しないということはよくあります。

とくに人間関係では、相手の価値観をある程度は認めないとやっていけません。自分の価値観を押しつけたところで、誰も従ってはくれないのです。それに悩んだところで、どうしようもありません。他人はそう簡単に変えられないからです。そうなると、あとは自分を変えていくしかないと気づきます。他人の価値観を認めるように自分を変えると、相手もこちらを認め、お互いにちょうどよい妥協点を探っていくことができるようになるのです。

仕事についても同様です。同じ業界でも、会社が違えば仕事の進め方がまったく違うことは珍しくありません。「前の会社ではこうだった」「こっちのやり方のほうが正しい」と言ったところで、転職先の社員からウザがられるだけです。そういう部分については、「郷に入っては郷に従え」でやっていくしかないのです。

若いころから環境の変化を何度も経験すると、次第にたくさんの価値観を認められるようになっていきます。私自身、これまでの経験で思ったのは、「倫理的に問題がないのなら、相手の価値観を素直に認めればいい」ということです。倫理的に問題がなければ、周囲に害悪をもたらすことはありません。社会には多様性が必要ですから、人畜無害な価値観を否定する理由もないでしょう。それでも、相手の価値観がどうしても自分に合わないということもあります。そんなときは、無理に認める必要はありません。それはあくまで、その人の価値観だと割り切ればいいのです。結局、人は人、自分は自分だからです。