これしかない!という考えが人を追いつめる

「自分にはこの仕事しかない!と思ってやらないとダメなんだ!」

私が若いころ、このようなことをよく年配の人から言われていました。私は当時から、そのような考え方は間違っていると思っていました。

終身雇用が当然だった一昔前は、そう考えた方がよかったのかもしれませんが、多様な選択肢がある現代では、このような考え方はリスクでしかありません。

「これしかない!」と思わなければやっていけなかった時代

昭和時代の日本では、一度入った会社で定年まで勤めることが当たり前という時代でした。会社を辞めるのは「逃げだ!」とか、「裏切り者」のようなレッテルを貼られることさえあったのです。

私が社会に出たばかりのころ、まだ地方ではこのような風潮が強く残っていました。そのため、転職者に対する風当たりも厳しく、転職すること自体が今より困難だったのです。

そのような社会的空気があると、「一度入った会社でやっていくしかない」と腹をくくるしかなかったのでしょう。

他に選択肢があると考えれば迷いが湧いてくるからです。その会社で勤め上げるなら、「この仕事しかない!」と思わなければ、気持ちの面でやりきれなかったのだと予想できます。

とはいえ、仕事だけでなく、他のことでも「これしかない!」と思い込むことは非常に危険だと私は考えています。人間というのは、思い込むことで生きることも死ぬこともあるからです。

気持ちの逃げ場を失うと人は絶望する

たとえば、世間で一流企業と呼ばれるような会社に入った人たちは、「ここで定年まで頑張ろう!」と考えている人が多かったと思います。

とくに、バブル崩壊までの時代では、そのように考え、会社に人生を捧げた人はかなりの割合いたはずです。そんな人たちが、中高年になってリストラされたらどうなるのか?

「この会社しかない!」「この仕事しかない!」そう考えていたのに、それが台無しになるのです。そうなると、リストラされた人は途方に暮れ、中には絶望して自ら死を選ぶ人もいたのです。

日本で急激に自殺者が増えたのが、バブル崩壊後の1998年です。あのころ、私はまだ学生でしたが、テレビのニュースで自殺者急増の報道がされていたのをぼんやりと覚えています。

ほかにも、私の身近であったことといえば、彼女にフラれて自殺した友人もいました。

彼はよく他の友人たちに、「俺には彼女しかいない」といったことを話していたようです。その当時は、まだ関係がうまくいっていたのですが、その後、彼女の気持ちになんらかの変化があったのでしょう。ある日突然、彼女から別れを告げられた彼は、絶望して自ら命を断ってしまったのです。

私はべつの友人からその知らせを聞いて驚愕しました。「まさかアイツが!?」ほかの友人数人もみんな同じ気持ちでした。

私たちは彼の冥福を祈るとともに、「なぜ死ななければならないのか?」と彼の死を悔やみました。年上の友人などは、「俺なんか、もうコイツしないない!と思っていた女に2回もフラれている。なら俺は2回死なないといけないのか?」「人生もっといいかげんでいいんだよ!」とヤケ酒をあおりながら漏らしていました。

私もそう思います。人間、長く生きていれば良いことも悪いこともあります。絶望することがあっても、生きていれば新しい出会いもあるし、良いこともあるのです。死んでしまってはどうにもならないのです。

彼の死は悲しい出来事でしたが、彼がなぜ絶望したかを考えてみると、やはりそこに強い思い込みがあったことは否定できません。「彼女なしの人生は考えられない」その思いが彼は強すぎたのです。

私はあのとき、「これしかない!」と思い込むことの危険さを改めて感じました。

選択肢はつねに複数持っておくことが望ましい

今、私たちが生きている時代は変化の激しい時代です。どんな大企業でも、入れば定年まで安泰という時代は終わったのです。

かつて私が勤めていた一部上場企業も外資に買収され、社内は劇的に変わりました。そんな変化の激しい時代に、たった一つしか選択肢を持たないことは、竹槍で戦車に突撃するほど無謀なことだと言ってもいいでしょう。今の世の中、選択肢はそれこそ無数にあるのです。

もしあなたがサラリーマンであれば、今の会社を辞めてもすぐに転職できるような準備をしておくことです。

転職するのも、同じ業界だけでなく、他の業界も視野に入れておくことをおすすめします。もし、あなたが転職しなければならなくなったとき、同じ業界が不景気だと転職がうまくいかない可能性があるからです。

電気・機械、通信、もしくはプログラマーなどのエンジニアであれば、何年か経験があれば、技術系派遣会社でいつでも雇用してもらえます。もし職を失ったら、ひとまず技術系派遣で食いつないで、次の機会を待つという手もあるのです。

その他にも、給与所得だけなく、副業でお金を稼ぐことも考えておい方がいいと思います。サラリーマンの世界も、少しずつ変化の波が押し寄せています。今のような給与形態がいつまで続くかわかりません。

現代では、数万円ならネットで稼げる方法はいくらでもあります。今の流れだと、会社が少しずつ社員を保証しなくなっていくと予想されるので、今からべつの収入源を確保できるよう準備しておく必要があるのです。

当然、一朝一夕には稼げませんから、少しでも早めに準備するよう動き出しておくといいでしょう。

今の世の中には情報が溢れています。これまで人類の歴史で、これほど情報が溢れている時代はありませんでした。それはつまり、今を生きている私たちに相当なアドバンテージがあることを意味します。

これらの情報を使いこなせば、複数の選択肢を持つことはさほど難しくありません。私自身の感覚だと、常に3つの選択肢を用意しておくと、大抵の環境変化にも対応できたと感じています。

最期に、恋愛について書いて締めくくりたいと思います。先に私の友人の例をあげましたが、恋愛についてもあまり一人にのめり込みすぎないようにした方が上手くいきます。

正直な話、私もこれまで何度も女性にはフラれていますが、「彼女しかいない!」と思ってフラれても、しばらくすると、またべつのいい女性は現れました。

「彼女しかいない!」というのは、単なる自分の思い込みにすぎないのです。あまり一人にのめり込みすぎると、相手にとっても負担になりかねません。

「過ぎたるは及ばざるがごとし」

多少、余裕をもって事に当たったほうが、何事も上手くいくのです。