正しい損得勘定できていますか

「損得勘定」

この言葉によいイメージを抱く人は少ないのではないでしょうか? たしかに、一般的に言われる損得勘定については、私もよいイメージを持っていません。ですが、損得勘定とは本来、私たちがよりよく生きていくために必要な考え方なのです。

ではなぜ、世の中の多くの人たちは「損得勘定」と聞くと、よい印象を持たないのでしょうか? それは、ほとんどの人がしているのは、損得勘定ではなく銭勘定だからです。

銭勘定をして嫌われる人、嫌われない人

「アイツは損得勘定ばかりしている」このように言わる人がたまにいます。そのような人には誰もがよいイメージを抱きません。ただ、こういった人の場合、しているのは99%銭勘定だと思って間違いないでしょう。

たとえば、人からお金を借りておいて、給料日に返すと約束しておきながら、自分が遊ぶ金を計算にいれ「今は金がない」と嘘をついて返さない。自分が人にお金を貸すと、友達でも必ず利子をとる。もちろん、自分が借りたときは利子など払わない。普段は人の頼みなど聞かないのに、金銭的メリットがあるときだけすすんで引き受ける。このように、銭勘定だけで行動する人がいるのです。

このような銭勘定をしている人は、しばしば周囲の人から嫌われます。そうはいっても、貨幣経済の現代、お金のことを考えない人などいません。銭勘定は誰もがしなければならないことなのです。ではなぜ、銭勘定をして嫌われる人と、そうでない人に分かれるのでしょうか?

答えは簡単、嫌われる人は自分のお金のことしか頭にないのです。自分のお金のことだけを考えているならまだマシで、相手に平気で不利益を負わせ、自分のお金だけを守ろうとする人までいるのです。

飲み会の勘定でトイレから出てこなくなる人

以前にいた会社の同僚からこんな話を聞いたことがあります。彼の友達は、飲み会で勘定になると、勘定が済むまでトイレから出てこなくなるというのです。それも毎回。そして、勘定が済んだ後、トイレから出てくると、金を払わずさっさと帰るのです。

私はこの話を聞いて嫌悪感を覚えました。その人は一体なにを考えているのでしょうか?

自分が飲み食いした分を他人に払わせておいて、自分は一切お金を払おうとしない。散々飲み食いしておいて金を払わないなど、立派な無銭飲食です。それ以前に、お金を払う気がないなら、最初から来るなという話でしょう。彼のような人間は、人にお金を使わせるのは平気でも、自分のお金が減るのは嫌なのです。これは非常に卑しい行為だといえます。

私は同僚に「よくそんな奴と友達でいられるな。自分には絶対に無理だ」と言いました。お金に卑しい人とつき合うと、自分には損しかないからです。

反対に、銭勘定をして嫌われない人というのは、どんな人でしょうか? それは、相手の利益も考えられる人です。ギブ・アンド・テイクができる人です。このような人は、自分が得をすることばかり考えません。ときには自らすすんで金銭的な損を引き受けることもあります。損得のバランスが取れているのです。だから人から嫌われることがないのです。

お金のことばかり考えていると本当の損得勘定はできない

銭勘定も必要ではありますが、お金ばかりに気を取られていると、本当の損得勘定はできません。人生、長く生きていると、様々なシチュエーションがあるものです。どちらかを選択しなければならないとき、お金だけを判断基準に置くと、失敗することはよくあるのです。

好条件の転職を辞退して、さらなる好条件にありついた例

私自身の卑近な例を一つあげてみましょう。もう10年近く前になりますが、私が一部上場企業を退職してから、2年ほどアルバイトで食いつないでいた時期のことです。そのときの年収は230万くらいでした。そろそろ手持ちの資金も少なくなってきたので、もう一度サラリーマンに戻ろうと決意し、転職サイトに情報を登録しました。

数日後、転職エージェントから連絡があり、某企業の面接を受けることになりました。私の希望した年収は500万。相手方の人事担当者は、私のことを気に入ってくれたらしく、頑張って私が希望する500万の条件を提示してくれました。年収230万から年収500万ですから、条件としては悪くありません。当時の私の状況からすると、破格の条件といってもいいでしょう。しかし、私はその会社の内定を辞退しました。

なぜなら、私にとって、その会社の面接官の印象が悪すぎたからです。人事担当者のほか、面接官は3人いました。上司となりそうな、そのうち2人の態度が最悪だったのです。どう見ても、歓迎されているような雰囲気ではありませんでした。それどころか、面接時の態度は高圧的で、入社してからパワハラがあるのは目に見えていたのです。

私も30半ばを過ぎていましたから、それまでの経験から「自分にこの会社は合いそうにない」と瞬時に判断できました。そこで、ひとまずその会社は辞退して、次のチャンスを待とうと考えたのです。もちろん、次のチャンスがいつ来るかわかりません。正直、金銭的にはかなりキツくなってきた時期でした。それでも、その会社に入って神経をすり減らすよりマシだと思ったのです。

結局、その1年後に年収600万の外資系派遣の仕事にありつくことができました。そのまた1年後、今の会社に入ることになったのです。もし、私が目先のお金に目がくらみ、あの会社に入っていたら、今ほど年収は上がらなかったでしょう。

上司の評価をアテにせず、転職して年収の大幅アップを実現した例

もう一つ、職場でよくある例をあげてみます。たとえば、あなたの上司が、人を言いなりにしないと気が済まない人間だったとしましょう。それでも、多くの人はそのロクでもない上司の評価を得ようと、一生懸命働きます。

しかし、ある人はそんな上司の評価など気にせず、自分のペースで仕事をしています。ある日、その人はべつの会社に転職していってしまいました。その後、風の噂で聞いた話では、彼の年収は200万以上がっていたということでした。

この例では、他の人は上司がロクでもない人間と知りつつも、目先の評価を得るために頑張ります。翻って、転職した人は、そんな人間の言いなりになって、いいことなど一つもないと判断し、自分のスキルを上げてさっさと転職することを選びました。

近年、このようなケースはよく見られるようになってきています。上司のいいなりになって、身を粉にして働いたところで、見返りなどたかが知れています。しかも、頼みにするのがロクでもない人間ですから、ただ利用されるだけで終わることのほうが多いのです。

このケースでは、評価する相手の人間性をよく見て、物事を判断することが重要になっています。いまだ多くの日本人は、目先の評価に弱いようです。ですが、私はその評価をエサに、人を利用しようとする輩を何人も見てきました。人は目先の利益に弱いものですが、自分が何を求め最終的にどうしたいのか、それがハッキリとしていれば、目先の利益に惑わされずに済むのです。

目先の損得ばかり考えていると結局は損をする

目先の利益にばかり囚われると、自分にとって本当の得というものは見えなくなります。人生は長距離レースですから、常に何年も先のことを考えておかなければなりません。しかし、日本のサラリーマンに何年も先のことを考えている人はまれです。では、どうすれば長期的な視野を持てるのでしょうか?

それは結局、自分がどういう生き方をしたいか、自分はどんな人間になりたいのか、といった指針を持っているかどうかで決まります。逆説的に自分はこんなことはしたくない、こんな人間にはなりたくないでもいいのです。ようは、自分の生き方に対する基本方針を持っているかどうかなのです。

自分の中に、人生の基本方針をしっかりと持っていると、目先の利益に惑わされなくなるのです。利益より自分の中の方針を重視するため、目の前の利益だけでなく、その他の要因にも目を向けられるようになるからです。自分の方針に従った場合、自分にとって他にどんなメリット・デメリットがあるのか? そう考えることができるようになるのです。

たとえば、あなたの前に2人のお客さんがいるとしましょう。1人目は単価が高いけど、クレームが多い面倒なお客さん、2人目は単価は1人目より下がるけど、クレームがほとんどないお客さん。このうち、どちらか1人しか選べないとすると、あなたならどちらを選ぶでしょうか?

ここで、目先の利益しか考えてない人は、1人目のお客さんを選ぶでしょう。しかし、目先の利益だけでなく、今後の取引を考える人なら2人目のお客さんを選ぶはずです。もちろん、クレームの内容にもよりますが、基本的にクレームが多い客というのは、何かあればクレームをつけて値切ろうとするものです。後々、トラブルになることも少なくありません。単発の仕事ならまだしも、長期的な取引を考えると、トラブルになる可能性が少ない方を選ぶのが、ビジネスを考えるうえでは正しい選択になります。

損得勘定のできない未熟な人間が会社を衰退させる

もしあなたが、組織のリーダーや経営者であるなら、自分の基本方針より組織の基本方針を優先しなければならないこともあります。そんなとき、自分の感情を一度脇に置いて、損得の判断をする姿勢が必要です。

正直なところ、私がこれまで勤めてきた日本企業の幹部たちは、これができる人がほとんどいませんでした。組織の利益より、自分の感情、自分の欲得を優先するのです。彼らのような人間は、目先の利益ばかりを追いかけるため、しばしば判断を誤ります。そして、自分たちの誤った判断の尻拭いは、下で働いている一般社員たちにさせているのです。

こんなことで会社がよくなるわけがありません。幹部に正しい損得勘定ができないから、多くの日本企業は今、衰退しているのです。自分の欲得を考えるだけなら、どんな未熟者にでもできるのです。

彼らにまともな判断ができない理由はわかっています。そもそも、彼らには自分というものがないのです。自分がないから上司に言われたことだけをこなし、目先の評価ばかりを追いかけるようになってしまったのです。そういう人間は扱いやすい反面、人間としては未熟でまともな判断力が育っていません。だから、上司の指示であれば、ときには明らかな違法行為にも手を貸してしまうのです。

昨今、日本のとりわけ大手企業で次々と不正行為が表にでています。これもいうなれば、目先の銭勘定ばかりを追い求めた結果なのです。もし、それらの事件に関わった企業幹部や担当者に、まともな損得勘定ができたなら、不正会計やリコール隠しなどの犯罪は起こらなかったでしょう。事象が小さいうちに表に出してしまったほうが、会社の損失は小さいからです。それができなかったのは、自分の評価という目先の銭を優先した結果なのです。

本当の損得勘定ができる人間になろう

私たちは、目先の損得に囚われない人間にならなければなりません。目先の損得に流される人は、常に誰かにコントロールされることになります。世の中の流れが緩やかで、変化の乏しい時代なら、それでも定年くらいまではやっていけたかもしれません。しかし、もはやそういう時代ではないのです。

変化の激しい時代では、個々人があらゆることを自分で判断していかなければなりません。そうしないと、他人から操られ、他人の犠牲にされることになるでしょう。変化の激しい時代だからこそ、まずは自分というものをしっかりと持つのです。正しい損得勘定をするには、自分の考え方が基本になるからです。

自分の考え(基本方針)にとって、これは損なのか得なのか。そこの勘定ができるから、自分がリーダーになったときも組織としての勘定ができるようになるのです。損得勘定はべつに恥じるべきことではありません。恥じるべきは自分の銭勘定だけを優先することなのです。そこに注意して、正しい損得勘定を心がければ、あなたの人生はもっと有意義になるはずです。