遺伝で人生は決まらない

「遺伝で人生は決まる!」

何年か前から、この言葉をよく目にするようになりました。私はこのような言葉を目にするたびバカバカしいと思います。書籍やネットの情報、あるいは海外の論文には、さも遺伝で人生のすべてが決まるかのような論調まであります。ところが、その内容をよく確認してみると、極めて限定された条件下での論調ばかりなのです。

にもかかわらず、そのような論調を鵜呑みにしている人は少なくありません。私のこれまでのサラリーマン生活でも、「これは遺伝だから」という言葉を何度も耳にしました。たとえば、若白髪が多い、頭が禿げる、頭の善し悪し、消極的な性格、ガン体質、成人病など、何から何まで遺伝のせいだと思い込んでいるのです。

私はなんでも遺伝のせいにすることが嫌いです。なぜなら、親から受け継いだ遺伝がすべてだと思い込んでしまうことは、諦めることと同じだからです。人生は諦めてしまったらおしまいなのです。

遺伝で決まるのは容姿や基本的な性質だけ

私は研究者ではありませんが、遺伝に関しては自分なりに思うことがあります。それは、遺伝で決定的に決まるのは、外見や身体的特徴だけだということです。顔かたち、皮膚の色、骨格の形、筋肉のつきかたや性質などです。これらは、自分の親から完全に引き継ぐものですから、どうしようもない部分だと思います。

しかし、内面の部分については、基本的な素質はあれど、その後の生活でいかようにも変えられると考えています。この素質の部分をたとえるなら、Windws 10やMac OSという基本OSにあたるでしょう。その後、自分の好きなソフトをインストールして使うわけです。同じパソコンでも、インストールしたソフト次第で用途はいくらでも変えられます。画像編集専用や設計専用、音楽編集専用にネットゲーム専用といった具体に。

なぜ私がこのようなことを考えるのかといえば、親とまったく性格や性質の違う人、親は平凡なのに、天才的な才能を持った人、そういった人を何人も見てきたからです。そういう私自身も、自分の親とはかなり性格や性質が違いますし、まったく違う人生を歩んでいます。

遺伝より生活習慣の影響のほうが大きい

もう一つ私が思うのは、遺伝より親から引き継いだ生活習慣のほうが影響が大きいということです。食生活や日常生活、考え方や行動、喜怒哀楽などの感情も含めたすべての習慣です。

たとえば、体型や身体の強さ、病気などは日々の食生活が大きく影響します。親の考え方や行動パターン、喜怒哀楽の感情も日々の習慣として無意識にすり込まれています。そのため、若いうちは自然に親と似た行動を取ってしまうものなのです。

人間はそれまでの生活で自然に身についたことは、ほとんど省みることはありません。自分が親と似た行動や言動、考え方をしていても、なかなか気づきづらいものなのです。その結果、親から受け継いだ生活習慣を大人になっても続けることになるのです。

実は生活習慣で改善できるかもしれないこと

・禿げ頭

頭が禿げたりするのは、髪質もあるので、たしかに遺伝的要素があるかもしれません。しかし、私が見てきた限り、頭が禿げやすい人は食生活が悪い、ストレスを感じやすい、怒りっぽいなどの特徴があります。禿げることは適度な栄養やストレスの軽減で、ある程度は予防できると私は考えます。

私は東洋医学が好きで、これまで本を何冊も読んでいます。その中で面白かったのが、怒りっぽい人は熱気が頭に昇って禿げやすくなると書いてあることでした。怒ると頭に血が昇ると表現しますし、怒ったときは頭がカッカするのはたしかです。

何時間も怒っていると、肩甲骨から後頭部までが硬直し、血流が悪くなって頭痛がしてきます。それがストレスとなって、体内の栄養素を無駄に消費することで、禿げの原因になるのかもしれません。東洋医学のどの本にも、怒りが禿げに繋がる原因の詳細は書かれていませんが、何冊もの本に同じことが書かれているということは、古来からの統計的事実なのでしょう。

・白髪

若白髪についても、私は遺伝的要素より、栄養不足とストレス、貧血の影響が大きい考えています。とくに、大酒飲みの人は若いうちから白髪が多くなる傾向があります。東洋医学では、髪の毛は血液の状態を表すと考えられます。そして、髪の毛と密接な関係があるのが、人体で最も血液を蓄えている臓器である肝臓です。肝臓の状態が悪いと、髪の毛に影響が出やすいのです。酒飲みな人は肝臓の調子が悪くなるので、白髪が増えやすくなるのでしょう。私のこれまでの人生でも、40代ですでに頭が灰色や白髪になっている人はほとんどが大酒飲みでした。

また、貧血も白髪が増える要因になります。肉体労働をしている人などは、事務職の人に比べて白髪は増えやすくなります。肉体労働というのは、結構な量の血液を消費するからです。そのため、知らず知らずのうちに貧血になりやすいのです。

私は以前、半年間だけ自動車メーカーで期間従業員をしていたことがあります。土木作業など比べものにならないくらいの重労働で、その半年間だけで一気に白髪が増えました。その後、もとの技術職に戻ってからは、また白髪が減っていったのです。この経験からも、貧血が白髪の増える原因になることはたしかだと思っています。もちろん、たんぱく質や亜鉛、ビタミンBなどの栄養素はしっかり取る必要があります。

・頭の善し悪し

これについても、遺伝的要素で決まると考えている人が多いようです。私が社会人大学院にいたとき、同年代の公認会計士の人がこう言っていました。「俺がこれくらいだから、自分の子供もこの大学くらいまでしかいけないだろう」

これは非常によくない考え方だと思います。子供の可能性に最初から上限を決めているのです。人間というのは、思い込みで自分の能力にいくらでも蓋をすることができる生き物です。親がそのような考え方をしていれば、子供も無意識にそう思い込むようになり、早いうちから能力の上限が決まってしまう可能性が高いのです。

「鳶が鷹を生む(とんびがたかをうむ)」という言葉もあるように、ダメな親から優秀な子供が育つ場合もあるのです。子供が親を超える事例など、世の中にいくらでもあります。まずは、親がこうだからといった思い込みを捨てないと、本当に自分の人生が遺伝で決まってしまうことになるでしょう。

私の経験上、頭の善し悪しは栄養と環境でまったく変わってきます。まず、毎日の食生活にたんぱく質を多く取り入れ、ビタミン・ミネラルを十分に摂取するのです。次に落ち着ける環境を用意し、そこで自分が興味のある分野の情報を思う存分に収集するのです。読書やネットで知識を取り入れ、取り入れた知識を実際に体験してみる。つまり、インプットとアウトプットです。これを何年か続けると、人の頭は飛躍的に良くなります。

・ガン体質や成人病

医療の分野でも、ガンや成人病は遺伝が関係するというのは常識となっています。これは本当に正しいのでしょうか? 私には必ずしもそうとは思えないのです。たしかに、肉体的な要素は遺伝で決まるので、その肉体的特徴がガンや成人病に関係することはあるでしょう。ですが、それよりも日々の食生活、ストレスの多い生活を続けることのほうが、病気の原因になっているような気がします。

ガンと成人病、これら2つの大きな原因になっているのが、食べ過ぎとストレスです。成人病の人は大抵の場合、大食漢ですから食生活の影響が9割だと私は考えています。ガンについても、栄養の偏りとストレスが大きな原因になります。栄養が偏っていると、代謝されない物質が体内に溜まり、それが集まってガンを形成するというのが東洋医学の考え方のようです。それに加え、ストレス過多な生活を送っていると、全身の血管が萎縮し、身体の各部に十分な血液が送られません。それは代謝不良の原因になるだけでなく、低体温も引き起こします。ガン細胞は体温35℃でもっとも増殖するといわれているのです。この2つが重なると、ガンができやすい体質になるのは当然の流れなのです。

・性格

消極的な性格や無気力な性格、こういった精神的な問題は改善するのがもっとも難しいでしょう。なぜなら、病気でもなんでも問題を解決するのに一番必要なことは、本人の主体性だからです。多くの良いお医者さんはこう言います。「私たちが病気を治すのではありません。治すのは患者さん自身です。私たちはその手助けをするだけです」と。名医だと評判のお医者さんほど、このように言うそうです。

私もこれには同感です。いくら医者にかかろうと、本人に本気で治す意思がなければどんなことも治らないのです。消極的な性格や無気力な性格というのも、実は食生活で結構改善することができますが、本人に改善する気がなければどうにもなりません。とくに一人暮らしの人は、本人によほど強い意志がないと難しいでしょう。親や周囲の人が、栄養のある食事を毎日用意して、確実に食べさせれば、なんとかなるかもしれません。

遺伝という鎖を断ち切るには客観性が必要

遺伝という思い込みの鎖を断ち切るためには、高い客観性が必要です。自分を客観的に見つめ、自分が今なにをしているのか常に意識するのです。そして情報を集め、自分のこれまでの生活習慣と比較してみます。他人がしていることや、本などの情報が自分の習慣とあまりに違うなら、自分の習慣が本当に正しいのか、まずは疑ってみる必要があります。

自分が普段、当たり前だと思って無意識にしている行動や考え方、習慣ほど疑ってみましょう。自分を客観的に見ることができれば、それが可能になるのです。まずは何でも疑ってみることが、現状を打破する最初のステップなのです。

ポジティブな疑いとネガティブな疑い

「人を疑ってはいけません」私を含め多くの人は、親や学校の先生にこう教えられてきたのではないでしょうか? とんでもないことです。疑うことはべつに悪いことでも何でもないのです。疑うにもポジティブな疑い、ネガティブな疑いがあるのです。

ポジティブな疑いとは、「これはもっと良くすることができるのではないか?」といった前向きな疑い。ネガティブな疑いとは、何の根拠もなく相手を下にみて無条件に疑うことです。ネガティブな疑いはいけませんが、ポジティブな疑いならいくら持っても問題ないのです。

自分を常にアップデートしていく

自分が手に入れた情報と比較して、すべてを他人の情報に合わせていく必要はありません。自分の目的を意識し、それが必要か不要かの判断を1つ1つしていけばいいのです。自分の目的を達成するために、自分の習慣を変える必要があるものだけ変えていけばいいのです。

若いうちは、経験がなく判断材料が少ないため、判断することが難しいかもしれません。それでも、自分なりに判断をしていく姿勢が大切なのです。自分の人生をよりよくしたいなら、自分のことでさえ前向きに疑い、1つ1つ判断を下していく必要があります。ときには判断ミスもあるでしょう。しかし、失敗も含め、1つ1つ自分で判断することを積み重ねていくことでしか、判断力は育たないのです。

自分を常に客観的に見つめ、良い部分は残し、悪い部分は修正していく。そうして自分をどんどん変えていくことができると、あなたの人生はどんどん変化していくでしょう。自分の人生が良くなっていくにつれ、あなたは遺伝という思い込みの鎖から徐々に開放されていくはずです。

人生を形作る遺伝以外の要素

そもそも、その人の人生を形作る要素は遺伝だけではありません。人間関係、自分が身を置いた環境、世の中の流れなど、他にも多くの要素があり、それらが複雑に絡み合っているのです。それなのに、遺伝で人生のすべてが決まるなどと決めつけるのは、あまりに滑稽だと思うのです。

もちろん、自分の人生においては、自分という個が一番重要な要素になることは間違いありません。それも客観性を自分に向けることで、よりよく変えていくことができるのです。遺伝で人生は決まらない。遺伝を言い訳に使うのはそろそろやめにしましょう。