「いつもポジティブでないといけない」
自己啓発の世界では、いつもこのように言われます。まるでポジティブな思考こそが高尚であり、ネガティブな思考は低俗であるといわんばかりの論調まであります。私はこのような論調を見るにつけ、「そんなにネガティブな思考は悪いことなのか?」といつも疑問に思っています。
ポジティブ思考に偏るのは不自然なこと
私も今年でとうとう44歳になります。しかし、これまでポジティブ思考だけの人など会ったことがありません。「私はネガティブなことを考えたことがない」このように豪語する人もたまにいます。私が思うに、このような人は自分のことがまったく見えていない未熟者か大嘘つきのどちらかでしょう。
人前ではポジティブ、ポジティブとテンションが高い人も、その裏ではポジティブに疲れ、ネガティブになっているのです。私はそういう人を何人も知っています。中には会社経営者もいました。彼らが人前で必要以上にポジティブを装うのは、結局は人寄せのための演出にすぎないのです。
物事には必ず表裏があり、光と影、+と-といった対極する要素が存在します。人体にある自律神経も交感神経と副交感神経という、2つの相反する神経があるのです。この2つの神経がバランスよく交互に切り替わることで、私たちの健康は保たれているのです。
常にポジティブであるということは、人体でいえば交感神経ばかり使っている状態です。一方の神経ばかり使っていると、いずれ神経が疲れて人は体調を崩してしまうのです。それを考えれば、ポジティブ思考だけに偏ることが、いかに不自然なことであるかがわかります。
ネガティブ思考が必要な理由
そもそも、ネガティブ思考は私たちが生きていくために必要不可欠なものです。ネガティブなことを考えることで、未来の危険や面倒ごとを予測し、回避することができるからです。
人間関係においても、ネガティブ思考は重要な役割を果たします。私たちが生きている社会は、善人ばかりではありません。ときには、悪意をもってあなたに近づいてくる輩もいるのです。そんなとき、心の中で「この人はなんか怪しいな」とネガティブに考えられれば、トラブルに巻き込まれる可能性は低くなるでしょう。
私が若いころ、上司や先輩からボロクソに罵倒された後、必ずこのように言う人がいました。「あれは石山君を育てようと思って言っているんだよ」たしかに、ポジティブに考えればそうなるでしょう。しかし、実際はただ自分の感情をぶつけていただけなのです。
このような誤ったポジティブ思考は、パワハラ上司や詐欺師には絶好の口実を与えることになります。どんなに悪意があっても、「育てようと思って厳しくあたった」といえば言い訳がたちます。詐欺師であれば、こちらを疑わずに信じてくれたほうが騙しやすいのです。このような事例は、今の世の中いくらでもあります。
こんなネガティブ思考は要注意!
とはいえ、やはりしないほうがいいネガティブ思考は存在します。
代表的なものは次の5つだと思います。
ネガティブな自己暗示
被害妄想
恨み
嫉妬
何かをしないための言い訳
仕事でもプライベートでも、何かをしたくないために言い訳するのはよくあることです。このような行動しないためのネガティブ思考は、なるべくしない方がいいでしょう。とくにするべきことに対して、したくない言い訳をするのはよくありません。
基本的に、しなければならないことをしないための言い訳は最悪の選択だと考えましょう。自分の成長や新しい情報を獲得する機会損失になるからです。私は、自分の中の情報量を増やすことが重要だと常々考えています。何もしない選択をしてしまうと、いつまでたっても自分の中の情報量は増えません。その結果、新しい手段を獲得することができず、いつまでたっても現状から抜け出せなくなってしまうのです。
ネガティブな自己暗示
これは自分に自信のない人によく見られます。「自分はダメだ」と失敗するイメージばかり持って、自分にマイナスの自己暗示をかけているのです。これでは何をやっても上手くはいかないでしょう。心理学の世界では、セルフイメージが大切だといわれています。自分にポジティブなセルフイメージを持っていれば、人生は上手くいきやすいからです。逆に自分にネガティブなセルフイメージを持っていると、人生は上手くいかない可能性が高くなります。
私自身も経験がありますが、悪いことや心配事ばかり考えていると、不思議なことにそれが現実になりやすいのです。いわゆる引き寄せの法則というやつですね。なので、最近はネガティブなことが頭をよぎっても、「ドンと来い!」と構えています。そうすると不思議なことに、頭に浮かんだ心配事はかえって起こらなくなりました。
ただ、ネガティブな自己暗示を自分にかける人というのは、親や周囲から虐げられてきた経験がある人が多いように思います。なので、自分を改善するためには、そういった人たちからまず離れることが必要です。そして、自分を認めてくれる人の近くにいると、少しずつ改善されていくでしょう。
被害妄想
被害妄想の強い人も気をつけなければなりません。相手がなにも思っていないのに、バカにされているような気がする。誰も言っていないのに、周囲から悪口を言われているような気がする。誰かから監視されているような気がする・・・挙げればキリがないのですが、その被害妄想自体、自分の思い込みであることがほとんどです。
被害妄想が強い人には、まず人が寄ってきません。人が寄ってこないということは、人生を変える大きな要素の一つである「人運」を捨てていることと同じです。よりよい人間関係を築くことも難しくなるでしょう。
被害妄想は失敗続きで人生がうまくいっていないとき、肥大しやすいのです。自分に自信が持てず、劣等感に支配されるからです。しかし、他人は自分が考えているほど、自分には興味がないものです。被害妄想の9割は、自分の取り越し苦労だと考えたほうがいいでしょう。あまり考えすぎず、悪い状況を耐えて乗り切ることを考えましょう。どんな状況でも、いずれ光が差すときは来るのです。
恨み
恨みごとを口にする人も、被害妄想と同じくいい人が寄りつきません。恨みの感情を持ち続ける人は、過去に縛られている人です。人間は過去に縛られると、前に進むことができません。人を恨むということは、精神的に相手に囚われている状態なので、自分の人生に集中できないのです。
また、自分で状況を変えることができる人、自分でなんでもできる人というのは、人を恨まなくなります。もちろん、そういう人でも過去に酷いことをされれば、その相手を嫌うことはあるでしょう。しかし、その相手のことをいつも考えているわけではないのです。普段は忘れていて、たまに思い出して嫌な気分になるくらいなのです。努力を続けて自分の状況がよくなっていけば、恨みの感情もしだいになくなっていくのです。
嫉妬
今の世の中、そこかしこで嫉妬の感情が渦巻いています。「嫉妬するのは当然だ」と考えている人も多いと思いますが、今の社会で嫉妬の感情は明らかに意図的に作られているように思います。一番の原因は、学生時代からの競争習慣、周囲の大人たちの考え方でしょう。自分が相手より上だと感じれば優越感に浸り、下だと感じれば羨み嫉妬する。そもそも、この考え方こそが間違いなのです。
私がこれまで会ってきた人をみても、嫉妬の感情が強い人はどこまでいっても幸せにはなれません。どんなにお金があっても、どんなに権力を持っても満足できないのです。下を見ればキリがないように、上を見てもまたキリがありません。嫉妬の感情が強い人は、他人と比べることでしか自分の価値がわからないため、いつまでも上を見ては嫉妬するという習慣から抜け出せないのです。
これは自分のことが見えていないことが一番の原因です。自分で自分の価値がわかるようになれば、他人と自分を比べて嫉妬することなどなくなります。他人の優れているところも、認められるようになります。
まずは自分のことをしっかりと見つめましょう。自分のことがよくわかってくると、自分の本当の望みがわかるようになります。自分の望みがわかれば、それに集中することができます。自分の人生に集中すれば、他人と比べて嫉妬している暇などなくなるのです。
ネガティブ思考に支配されないために
結局のところ、私が言いたいのはネガティブ思考に支配されなければいいということです。「ネガティブなことを考えてはいけない」といったところで、人はネガティブなことも考えるものだからです。それなら、自分の中のネガティブも受け入れて、「ネガティブなときはネガティブでもいいんだと」割り切ったほうが人生は楽になるのです。
人間とは本来、善と悪が共存しているものであり、この善と悪を完全に切り離すことなど不可能なのです。むしろ、自分の中の悪の部分を理解して、それに支配されないよう意識を向ければいいのです。
自分の人生が上手くいっていないときほど、人はネガティブ思考に支配されやすくなります。ですが、自分を知り努力を続ければ、いづれ状況は好転するものです。もし、あなたが今の状況から抜け出せないとしたら、それは同じことを繰り返しているからだと思います。同じやり方の先には、同じ結果しかありません。しかし、やり方を変えれば結果は変わります。
自分を客観的に見つめ、自分がしていることを常に意識しましょう。自分のしていることがわかれば、やり方を変えることができるようになるはずです。日々の生活や行動を変えれば、必ず状況はよくなってきます。そして、不満も少なくなっていくのです。そのとき、あなたはネガティブ思考をコントロールし、ネガティブに支配されることはなくなっているでしょう。