なぜビジョンを語ってシラけられるのか?

「リーダーはビジョンを語れ!」

MBAの経営学などでよく語られる内容ですが、私がこれまで勤めた会社でも、何人かMBAを取ってビジョンを語る人がいました。ところが、彼らがビジョンをいくら語っても、私だけでなく誰もがシラけるだけでした。

ビジョンを語って、皆が盛り上がる人。ビジョンを語っても、皆がシラける人。今回は、この両者の違いについて考えてみます。

実行力のないリーダーがビジョンを語る無意味さ

将来へのビジョンを語り、シラけられるリーダーの最大の特徴は、口だけで実行力がないということです。リーダーがビジョンを語って周囲が盛り上がるのは、そのビジョンを実行できる可能性が高いからです。

リーダーの言葉で周囲が盛り上がるとき、周囲の人たちは「この人ならやってくれそうだ」という期待感があります。そして、期待される人には必ず実行力があるのです。もちろん、示されたビジョンの内容にもよりますが、どんなに素晴らしいビジョンを打ち立てようとも、実行可能性がなければ誰も期待感を持たないのです。

翻って、ビジョンを語っても周囲がシラけるリーダーとは、口だけで実行力がないため、語る内容に具体性がありません。普段から自分で行動していないので、実効性のある具体的なビジョンを描くことができないのです。そして、頭の中に具体的なイメージが描けないことに、人は期待しません。

また、実行力のないリーダーは、周囲に期待するだけで自ら積極的に動こうとしません。そのため、周囲の人たちは、「どうせ全部オレたちがやるんだろ」とバカバカしくなるのです。当然、周囲の人たちのモチベーションは低下し、そのビジョンが実現する可能性はほとんどなくなります。

インセンティブのないビジョンに従う者はいない

リーダーが将来のビジョンを語るうえで、実現可能性以外にもう一つ大切なことがあります。それは、自分たちに何らかのインセンティブがあるかどうかです。

べつにお金でなくてもよいのです。自分たちの業務が精神的、あるいは肉体的に楽になるとか、社会から感謝されるようなことでも構いません。とにかく、集まった人たちが求めているインセンティブを与えることが重要なのです。

どんなに素晴らしいビジョンを打ち立てても、実現可能性が高かったとしても、一緒に働く人たちにインセンティブがなければ人は動きません。もちろん、中には献身的に働いてくれる人もいますが、そういった人は極めて稀です。というより、そんなボランティア精神に溢れる人ばかり集めることを考えるなら、インセンティブを渡したほうが話は早いというものです。

しかし、昨今の日本のリーダーたちは、自分のインセンティブばかり考えて、下で働く者たちにインセンティブを与えようとしません。だから、大手企業などでは、実現できないプロジェクトがたくさんでてくるのです。

日本人の生産性は、先進国中最下位といわれています。十分なインセンティブを与えないことが、日本人の生産性があがらない原因の一つであると私は考えています。これでは、日本はいつまで経っても生産性途上国の地位に甘んじるしかありません。

インセンティブに対する米国企業の巧さ

私自身、外資系企業に入って感じたことですが、米国の会社はその点が非常に巧いと思います。従業員にいろいろな形で様々なインセンティブが与えられるのです。

有名なのは、日本企業でも採用されているストックオプションでしょう。私が以前、日系の一部上場企業に勤めていたとき、ストックオプション制度がありましたが、ハッキリいって全然儲かりませんでした。

ところが、外資系企業のストックオプション制度は与えられる株の数が違いますし、購入機会が頻繁にあります。しかも、購入価格のディスカウント制度で、ほぼ確実に従業員に利益が出るようになっているのです。実際、ストックオプションで、すでに1億円以上稼いでいるマネージャーまでいます。

その他にも、いろいろな報奨金制度があり、ある日突然、10万円が支給されたこともありました。報奨金の内容は、生産性が高い、顧客から良い評価もらった、仲間をよくサポートした、など様々です。長年、日本企業で働いていた私からすれば、「こんなことで報奨金がもらえるのか!?」と驚いたものです。

私もお金がすべてとは思いませんが、やはり一生懸命仕事をして、それがお金という直接的な見返りとして与えられると、それなりに嬉しいものです。しかも、そうしたインセンティブは、上司の評価や個人的感情など一切関係ありません。

「こういう結果を出せば支給する」と会社の規定で決まっているのです。そのため、不公平感がなく、誰でも支給されるチャンスがあります。だから、生産性を高めようと皆が努力する気になるのです。

中身のないパフォーマンス

そのほかにも、シラけられるリーダーによくあるものとして、最初から実現する気がない大言壮語を吐くことがあげられます。これはとくに、親族経営の会社、派閥争いの激しい会社など、社内政治がものをいう組織に多い傾向があります。

社内の競争相手を牽制したり、威嚇するためのパフォーマンスなのです。こうした組織では、下で働く人たちもすでにわかっているので、リーダーが何をいっても「ああ、また言ってるよ」くらいにしか思っていません。ビジョンを語る前から、すでに社内全体がシラけているのです。

これは、ビジョンの内容とかインセンティブ以前の問題で、もう組織として終わっていると考えていいでしょう。もし、あなたがこのような会社に入ってしまったら、腰掛け程度に考えて、次の転職を早めに決断することをオススメします。