感覚だけに頼る人は中途半端で終わる

「感覚が重要だ」

これはとくに、格闘技やスポーツの世界でよく言われることです。身体を動かして何かの動きを練習しているとき、ふと「あっ、この動きだ!」と確信めいた感覚を覚えることがあります。こういった身体感覚を経験することは、たしかに大切なことです。

しかし、この感覚だけに頼るという行為を私はオススメできません。

ある感覚を経験したとき、その状況を100%再現できる人はまずいないからです。なんらかの感覚を経験したとき、ほとんどの人は「これだ!」と感じるのですが、しばらくすると忘れてしまうのです。いくらいい感覚を経験したとしても、それが再現できなければ意味がありません。

感覚を言語化することで再現性を高めることができる

では、感覚を再現するにはどうすればいいのでしょうか。それは、感覚をできるだけ具体的な言葉にすることです。言葉にできれば文字として残すことができます。文字として残ると、いつでも見返すことができるので、時間が経ってもそのときの感覚を思い出せるようになるのです。

感覚を言語化するためには、一定水準の言語能力が必要です。つまり、言葉の表現や意味をそれなりに知っておかなければならないのです。言葉というのは具体的なものですから、言葉として表現できると、自分自身も意識しやすくなるのです。

一流のスポーツ選手がインタビューを受けるとき、彼らは必ず自分の言葉、自分なりの表現というものを持っています。彼らは、自分の経験や感覚というものを、ちゃんと言葉で表現できるのです。

先日、東洋経済Onlineで面白い記事を読みました。総合格闘家の朝倉未来さんが書いていた記事です。悲しいほど心が弱い人に共通する3つの特徴

この記事を読んでみると、彼の表現は非常に具体的かつ説得力があります。このように、一流の選手ほど自分を客観視し、それを言葉にできるだけの言語能力を身につけているのです。

また、彼は格闘技のインストラクターもやっているようですが、これも自身の経験や感覚を言葉にする能力がないとできないことです。言葉で他人に説明できるから、他人にも自分の経験や感覚を再現できるのです。

言語化を軽視している人ほど中途半端で終わっている

私もこれまで、色んな場所に顔を出してきました。その中には、元プロボクサーや元プロ格闘家の人も何人かいました。彼らと話をすると、よく「感覚が重要」と言います。ところが、その感覚を人には説明できないのです。

私は彼らに「もうちょっと自分の感覚や経験を言葉にできるようにしたほうがいいよ」とアドバイスをしても、彼らはそんなもの必要ないといった態度をします。中には「お前は何も分かってない」といって人をバカにしたような顔をする人もいます。

自分の考えを貫くのも人生ですから、それもいいでしょう。私の言ったことを聞くも聞かないも個人の自由です。ただ、彼らのような人たちは、一度はプロの世界に入ったものの、よい結果を残せず、引退してサラリーマンをしている人ばかりなのです。

スポーツや格闘技の世界にいる人は、勉強嫌いの人も多いので、本を読んで勉強したりするのが嫌なのかもしれません。しかし、その世界で結果を出している人たちは、みんな勉強熱心で一定水準の言語能力を身につけているのが現実です。

結果を出せていない人たちは、恐らくそれを知らないのだと思います。まれに、言語化も練習もあまりしなくても強い人がいますが、それはただの天才ではなく超のつく天才だと考えた方がいいでしょう。凡人や普通の天才が超天才のマネをしたところで、うまくいくわけがないのです。

言語化することでキャリアの幅が広がる

自分の経験や感覚を言語化することは、自分のキャリアを広げることにも繋がります。そういう意味でも、自由に個人を表現できる今の時代に、言語能力は必須の能力だといえるのです。

スポーツや格闘技の世界は、身体を酷使しますから、選手としての寿命はそれほど長くありません。選手をしている間、莫大な資産を築けていればいいのですが、そうでない場合は引退後のキャリアを考える必要があります。

言語能力がある人は、引退後もキャリアに困りません。試合の解説者やアドバイザー、インストラクターの道も拓けます。そのほかにも、本を出したりYoutubeで情報を発信したりすることもできるでしょう。

プロの世界に入って、それなりに結果を残していれば、すでに知名度はあります。そこに言語能力が加われば、表現の世界でも成功しやすいのです。

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