仕事は金じゃないという綺麗事

「仕事は金じゃない」

いまでも、このようなことを言う人がいます。こういうことを言う人は、決まってバブルを経験している中高年世代です。

私は戦後初の就職氷河期世代ですから、これまで就職や転職にはかなり苦労してきました。そのため、私より下の世代からは、このような綺麗事を聞くことはまずありません。私以降の世代は、ほとんどの人が終身雇用・年功序列の恩恵を受けられていないからです。

お金が原因で生活に苦労してきた人たちは、「仕事は金じゃない」というセリフがどれだけ嘘っぱちの綺麗事かを理解しています。そもそも、そうことを言う人に限って、お金のことばかり考えているのです。

今回は、「仕事は金じゃない」ということの間違い、私たちになぜお金が必要なのかについて考えてみましょう。

「仕事は金じゃない」とうそぶく人たち

「仕事は金じゃない」、私はこれまでの社会人生活で、何度この言葉を聞いたことかわかりません。こういうことを言う人たちは、表向き「俺たちはやりがいのために仕事をやっているんだ」「会社のために仕事をしているんだ」と豪語します。

ところが実際には、こういうことを言う人ほど、お金のことばかり考えています。少なくとも、私が見てきた範囲ではそうでした。

彼らは、わざと仕事を遅くして残業代を稼ぎます。ボーナスが減ると不満を漏らします。昇給が思ったより低ければ、自分を評価した上司の陰口を叩くのです。

お金のために働いているのでなければ、どうしてお金のことで不満を言うのでしょうか?「仕事は金のためじゃない」というなら、一度でもいいから無給で働いてみればいいのです。

しかし、実際にそのようなことができる人はいません。なぜなら、私たちは生きるために仕事をしてお金を稼がないといけないからです。世の中のほとんどの人たちは、生活のために仕事をしている。これが真実なのです。

お金のために仕事をして何が悪いのか

どういうわけか、多くの日本人は、お金を稼ぐことが卑しいことだと刷り込まれているように思います。もちろん、以前は私もそのように考えていました。恐らくは、戦後教育からだと思いますが、なぜこのような状況になったのか、ハッキリしたことは私にもわかりません。

ただ、私自身がこれまで散々お金に苦労してきて言えることは、お金を稼ぐことは本来、卑しいことでも何でもないということです。詐欺や窃盗で稼いだ金ならまだしも、普通に仕事をして稼ぐことに何の問題があるのでしょうか。それは、私たちが生きていくために当然のことなのです。

にも関わらず、「お金のために仕事をしている」とハッキリ言う人は、どこかしら軽蔑されるような空気が日本社会にはあるのです。これでは、積極的にお金を稼ごうという人が減るのも当然です。

お金があるからこそ仕事に価値が見出せるようになる

「仕事はやりがいこそが一番であって、お金はさほど重要ではない」このような考え方もあります。ですが、そういう人が月5万円の給料で働くとすると、どうなるでしょうか。恐らく、すぐに生活が立ちゆかなくなり、仕事を辞めることになるでしょう。そんなことが続けられるのは、それなりの蓄えがある人だけなのです。

ほとんどの人は、最初は生活のために仕事をするようになります。仕事を続けることで、次第に豊かになり、金銭的な余裕ができるに従って、初めてやりがいを感じられるのです。自分の生活がまったく豊かにならない仕事に、普通の人は価値を感じられません。何事もお金に換算される今の世の中、賃金が低いことは、自分の仕事には価値がないと言われているようなものだからです。

まともに生活ができないほど賃金の安い仕事に、人生をかけようと考える人はいないでしょう。逆に、十分な賃金がもらえる仕事であれば、「もっと仕事の腕を磨こう」という気にもなるのです。だから、高い賃金の仕事ほどプロが多くなるのです。

お金を使うことは情報を買うこと

お金を使うことは、情報を買うことと同じ意味を持ちます。お金のある人は、お金のない人より、できることが増えます。それがすなわち、持っている情報量の差になるのです。

「富める者はますます富む」と言われますが、これはお金を持っていることで、たくさんの情報を得られることに由来します。一般人の知らない情報をたくさん持っていれば、お金を稼ぐことも簡単になるでしょう。だから、お金を人より使えると、それだけ有利に人生を送ることができるのです。

高度な技術開発ほど高い年収が必要

「お金を使うことは、情報を買うこと」と私は言いました。これを会社組織に当てはめると、「平均年収の高い会社ほど、高度な仕事ができる社員が増える」ということになります。

社員の一人一人が、それなりにお金を持っていますから、自分の趣味やスキルアップにお金を使えるのです。中には、自分のスキルに集中してお金を使う人も出てくるでしょう。そういう社員が多い会社が弱くなる理由がないのです。

とくに、これからの時代はテクノロジーが繁栄の鍵になります。そのテクノロジーが高度であればあるほど、エンジニア自身にも様々の分野の情報が必要になってきます。

最近では、AI開発のエンジニアに、高収入が約束されていることを知っている人もいるでしょう。シリコンバレーのAIエンジニアの平均年収は3000万以上といわれています。それに対して、日本のAIエンジニアの平均年収700万弱です。これでは、日本と諸外国の差は開く一方です。

日本企業の多くは、開発費さえ出せばいいと考えているようですが、エンジニアが仕事以外の場所でもっとお金を使えるようにしないといけません。仕事以外の経験で違う着眼点を得て、新しい技術が発見されることはよくあるからです。

ただでさえ、AIというのは人間に近づけていくものですから、人間が経験するあらゆる情報がAIの開発には必要なのです。これまで必要ないと思われていたような情報でも、これからは必要になるかもしれないのです。

そのために、仕事以外でもエンジニア自身に様々な経験ができるよう、もっとお金を出す必要があるのです。