「日本の技術力は世界一!」
このように考えている人は、日本に限らず世界中にいます。私も技術の世界に20年以上、身を置いていますが、正直なところ、今の日本の技術力がそれほど高いとは思いません。
こう言うと、「そんなことはない!」と反論されることは重々承知しています。ですが、私は本来の日本人の能力を考えたとき、本当は今の何倍も先を行っていなければならないと思うのです。
他国と比較すれば世界一の分野は数多くあるけれども
さて、技術と一言でいっても、色々な技術があります。生産技術、量産技術、信頼性技術、設計技術、材料技術、基礎技術、環境技術 etc… それこそ、数え上げればキリがありません。
たしかに、基礎技術のニッチ分野などでは、日本が世界一になっている会社はいくらでもあります。ただ、私が言いたいのは、他国と比べてどうかという話ではなく、日本人本来の能力値で測ったときどうかという話です。
私は製造業のエンジニアとして、長年現場で働いてきました。そこで感じたことは、日本の工場はいくらでも改善の余地があるし、技術自体もまだまだ伸びしろがあるということです。
むしろ、「なぜこんなところで停滞しているの?」と不思議に感じることすらあります。
他国と比較して世界一になったからといって喜ぶようではいけません。我々日本人は、今程度の技術で満足してはいけないのです。
その昔、職人たちはどこまでも自分の技術を高めることを考えていました。その村で一番だとか、その地方で一番だとか言われても、そんなことは気にも止めず「いや、この技術にはまだまだ先がある」と、さらに突き詰めていたのです。
現代、多くの日本人にもその流れは引き継がれています。
ビデオゲーム一つとっても、トッププレイヤーの練度には常人離れした凄まじさがあります。その他、イラスト、フィギュア製作など、サブカル分野にひとたび目を向ければ、驚くほど熟練している人がいくらでもいるのです。
ですが、私が長年身を置いてきた製造業の世界では、その日本人の気質があまり活かされていません。それでも、発展していることには間違いないのですが、近年、あまりにもその歩みが遅いと私は感じるのです。
日本の技術を停滞させている原因
その原因の最たるものは、日本の組織運営にあります。現状の日本の組織運営では、日本人の能力を本当に活かすことはできないのです。
技術を発展させるには、自由な発想が必要です。日本の多くの会社組織では、その自由な発想を阻害する要因が多すぎるのです。とくに、以下の3つ要因は技術を進歩させる上で障害要因にしかならないでしょう。
出世競争
賃金体系
上下関係(年功序列)
この上下関係というものは、技術の発展のみならず、あらゆる分野の発展を阻害します。なぜなら、一度上下関係ができると、下の人間は上の人間にほとんど意見を言わなくなるからです。
とくに、日本では上下関係が厳格化する傾向があります。
そのため、上の人間が下の人間を抑えつける場面を日本のあらゆる会社で見かけます。そんな環境で、自由な意見交換などできるわけがないのです。
そのような組織では、自分の意思を強固に持った優秀な人材ほど爪弾きにされてしまいます。優秀な人間ほど我が強いというのは海外では常識です。つまり、上下関係の意識が強いと、本当に優秀な才能を使いこなすことができないのです。
これは日本で、長らく年功序列という制度が敷かれたことが原因でしょう。
年功序列の年功はまだわかるのです。人間、年をとればとるほど何かとお金が必要になるものです。家族がいれば生活費はかかりますし、子供がいれば大学に行かせることもあるでしょう。ですから、ある程度、年をとった人間が多少は多めに給料をもらうことに私は反対しません。
ですが、年功序列の序列という部分はいただけません。これは、年をとった人間が無条件に偉いということになるからです。そのせいで、日本中に勘違い老人が増えてしまいました。ただ年上というだけで、目下の者に偉そうな態度を取ってもいいという今の風潮は、どう考えても間違っています。
こうした誤った風潮が、どれだけ技術の進歩を阻害するのか、企業経営者は今一度考えるべきです。
出世競争
これも最悪です。先に挙げた上下関係と負の相乗効果をもたらします。この出世競争という考えに囚われているうちは、その会社の技術に大した進歩はないでしょう。
この出世競争があるおかげで、これまでどれだけ多くの技術が消えていったことかわかりません。
部下が新たな技術を発見しても、その成果を横取りしたり、自己保身のために闇に葬ったり・・・どの会社でも、調べてみれば、そうしたことが過去に山ほどあるはずです。
私の身近でも、若いエンジニアが提案した斬新なアイデアを蹴られることが何度かありました。その理由は、上司が失敗したときの責任を取りたくないというものです。私は呆れてものがいえませんでした。
「そんな理由で、新しい技術を不意にするのか?」と思われる人もいるかもしれませんが、そういう話は現実にいくらでもあるのです。
失敗の責任を取りたくない、自分が追い抜かれるのが嫌、相手のことが気に入らない、このようなくだらない理由で、日の目を見られなくなった技術は、日本中を探せば相当な数にのぼるでしょう。
そして、そうした技術に目をつけた海外の企業に安く買い叩かれてしまうのです。それもこれも、全ては出世競争というつまらないお遊びを放置しているからなのです。
賃金体系
現在の日本の賃金体系も改めなければなりません。終身雇用を前提とした現在の賃金体系では、優秀なエンジニアは日本企業に定着しなくなっていくでしょう。
ここ10年くらい前から、日本国内にも外資系の企業がどんどん入り込んできたからです。初任給は低い、昇給額も低い、まともな給料をもらうのに10年単位の時間がかかる。
これでは、賃金水準の高い外資系企業に優秀なエンジニアはどんどん流れてしまいます。いくらエンジニアといっても人間です。彼らにも生活がありますし、スキルアップをするにもお金が必要なのです。
そこを理解せず、今までの賃金体系でやっていけると考える方が間違っています。
今後、技術の世界はさらに高度化していくでしょう。優秀なエンジニアほど、新技術の流れに追いつくため、プライベートでも自腹を切って情報を取りにいくものです。
技術が高度化すればするほど、必要な情報量は増えます。情報に払う金額も高額になるのです。だからこそ、日本企業もエンジニアにもっとお金を与えるべきなのです。
技術が高度化するほど日本の優位性が高まる
これから、世界は本当の意味で高度情報化社会に入っていきます。そうすれば、現在のあらゆる分野の技術は高度化し、今以上の緻密さも求められていくことでしょう。
そんな時代において、我々日本人はとてつもないアドバンテージを持っていると自覚しなければなりません。
私も外資系企業に勤めているため、これまで何人もの外国人と関わってきました。そこで目の当たりにしたのは、日本人なら誰でも当たり前にできることが、外国人には当たり前にできないという現実です。
とくに、細かい作業や高い注意力が必要な作業ほど、日本人の強みが発揮されると感じました。
今、私が在籍しているのは米国企業ですが、まあ部品の不良が多いのなんの。日本の設備メーカーに在籍していたときは、ほとんどなかった部品の不良がバンバンでてきます。設備が故障して緊急に部品を手配したものの、送られてきたものが不良品など日常茶飯事なのです。
米国の技術水準はたしかに高いと思います。日本の技術にない独創性があるのです。そこは認めるのですが、一つ一つの部品の信頼性となると、日本製品の足下にも及びません。
日本人の独創性を発揮できる環境を作れ
しかし、今現在、日本の技術に独創性があるとはあまり言われることはありません。日本の技術には独創性がないというのは由々しき問題です。日本人には本来、稀にみる独創性が備わっているのに、なぜそれが発揮されないのか?
それは、先に挙げた組織運営上の問題があるからです。先に挙げた3つの問題のほかにも、無能な上司が出世するとか、ピラミッド型組織で情報の伝達が遅いとか、他にも色々と問題はあります。
とはいえ、上の3つが最も最優先に改善しなければならない問題だと私は思います。
もし、これらの問題が改善されれば、日本のあらゆる企業から、斬新な技術がこれまで以上に出てくるようになるでしょう。そうして、技術がさらに高度化すれば、他国が真似をしようとしても出来ないレベルにまで到達できるはずです。
そして、多くの製品で「この製品は日本人しか作れない」と言われるようになっていくのです。
今のように、「日本の設備をそろえたら他の国でも同じ製品ができる」というレベルの話ではなくなるのです。
だからこそ、日本企業はもっと職場環境を整えることを考えなければなりません。そうしないと、いづれ優秀なエンジニアはみんな外資系企業に取られてしまうでしょう。
新しい技術は全て外国企業から、それでは日本人としてあまりにも寂しいではないですか。今こそ日本は職場環境を整え、我の強い人材を使いこなせるよう準備する時期に来ているのです。